「水と音のビオトープ」計画書

 

甲南大学文学部人間科学科

平成15年3月26日

 

 

目  次

1.計画の趣旨

2.「水と音のビオトープ」の運営方法

3.「水と音のビオトープ」のねらい

4.要検討事項と「水と音のビオトープ」の概要

5.神戸市と甲南大学の役割分担

6.「水と音のビオトープ」計画図について

7.提言

8.施設見学会記録


市民活動によるビオトープ整備の基本計画書

 平成15年3月31日

甲南大学文学部 教授
谷口 文章

1.計画の趣旨

 平成7年1月17日の阪神・淡路大震災で、神戸市建設局東部建設事務所水環境センターは、大被害を受け復旧工事を行った。その結果、旧本館跡地が空き地となったので、この地(約2,800m2)にビオトープを建設し地域の環境改善を図ることが決定され、神戸市との契約で、甲南大学が、その基本計画を作成することとなった。
 その研究委託の目的および内容は次のようなものであった。それは、東灘処理場旧管理本館跡地に、大学生及び地元住民などを中心とする環境教育をめぐる市民活動により、ビオトープを整備するための基本計画を大学・市民・行政のワークショップ手法で作成する。そのための助言及びワークショップの運営を行うものであった。
 その基本構想として、建設予定地は、都会地にあることから、「ビオガーデン」と呼ぶのが適当であろう。六甲山系の環境と周辺の灘浜の海岸とを結び,住吉川と共存したアメニティ空間を創生し、そのなかで子どもから大人までが環境教育を受けられるビオトープを形成する、との考えに立ち、環境復元のために、工場地帯と遮断する「六甲山系を模した森」の中に、高度浄化した処理水を活用した、池、小川、草地帯、水遊び体験ビオトープ、水車、ログハウスなどを設置し、ホタルも飛び交う、「水と音のビオトープ」(仮称)を計画した。
 このビオトープは、地域の子どもたちが自然観察、水と小川のせせらぎ、鳥の歌声などを通して、環境に親しみ、実験を繰り返しながら、計画を更新すること(プロセス・プランニング)もできるように配慮している。地域の大人も子どもと一緒になってビオトープを維持発展させることを通じて、豊かな心を培うことが体験できる場を目指している。とくに、地域の特徴を生かし、東灘区の岡本梅林に見られるような名所とするため、梅も多く植える予定である。そしてその全体の景観は、六甲山を模することにする。

2.「水と音のビオトープ」の運営方法

活動内容

@ビオトープの概念づくりと計画
Aビオトープの建設、基盤整備
Bビオトープの維持管理
Cビオトープを使用しての環境教育
D遊歩道「せせらぎの小川」の管理・維持
E催しの主催(水環境フェアなどとの連携)
Fホームページの開設・維持
G活動報告書の発行
Hその他

ホームページは、「水と音のビオトープ」の今までの成果を公開し、各パートナーの連携を緊密にし、広く市民からの意見を吸収し、活動に反映できるように配慮している。毎月1回更新するように考えている。

3.「水と音のビオトープ」のねらい

 次に示す、7点に重点をおく。

@六甲山系の鳥、灘浜の水鳥が集まる場所とする。(鳥類の好む花木などを植える)
A東灘の歴史的象徴性のある動植物を育てる(例えば、岡本の梅林等)。
B住吉川の希少植物を育苗する。
C水環境センター内の緑を増やし、水の流れで水車を回す。
  水車には臼を設置し、脱穀作業ができるようにする。また、発電もできるようにする。
D風力発電、太陽光発電など自然利用のエネルギー製造のモデルを設置する。
E甲南大学と水環境センターが中心となって、地元の小・中学校の環境教育実践のフィールドとする。
Fひょうごオープンカレッジの修了生の有志が地元の人々と共に、ビオトープ管理・維持を行う実践の場とする。

4.要検討事項と「水と音のビオトープ」の概要

既に、「せせらぎの小川」が開放されていること、等との関連を考慮すると、以下の10項目について検討が必要と考える。

@大木の移植
A高木の入手(道路建設・宅地開発等で切り倒される木を救済できないか。)
Bビオトープ内の池と既設の「せせらぎの小川」との関連
C測量
D設計図
E事務所(プレハブ:できるだけ早期に設置)
F水環境センター内の生物調査
G住吉川の生物調査
H六甲山の生物調査
I既存のものの対処の仕方(アーモンド、グッピーなど外来種)
Jホタル(せせらぎの修復管理、担当者の決定)

 

 3項、4項で検討した内容をふまえて、次のような施設を設置することとした。

@敷地:約2,800m2
A水車を給水口近くに置く
B六甲の森を置く
C高木で周囲のコンクリート建造物を隠す
D草地帯を置く
E希少種育苗の施設を置く
F池を置く
G水遊びの場所を置く
H観察小屋を置く
I東屋、観察小屋などの屋根に太陽光発電パネルを置く
J小形の風力発電機を置く。(街灯を水車、太陽光パネル、風力発電等で点灯する)
K高木の間に低い花木を置く
L遊歩道をめぐらす
M小休止できるベンチをおく

5.神戸市と甲南大学との役割分担について

神戸市建設局東部建設事務所水環境センターと甲南大学谷口研究室とが運営協議会の事務局を構成するが、およその役割分担を次の通りとした。

 

 神戸市 :「水と音のビオトープ」の基盤整備
        平日の「水と音のビオトープ」の水・清掃等維持管理
        資材確保、場所提供、会議室、市民啓発講座の場、地元の事務連絡、リスク管理
        維持管理・整備費

 甲南大学:「水と音のビオトープ」の各運営グループを組織化する
        「水と音のビオトープ」の維持管理のパートナーシップについての調整役をする
        ホームページなどを通じて水環境センターの活動を市民にPR
        市民に開かれた環境教育のイベントを企画
        市民ボランティアの潜在的環境力を引き出す
        甲南大学と水環境センターとの共催で大学において水循環と水の大切さについて
          の講習会・シンポジウムを開催(ex.講座:甲南大学、実践:水環境センター)
        企画・会議・教育の実践を通じて、地元の小中学校の環境教育を支援する

6.「水と音のビオトープ」計画図について

6.1. 計画図の作成経過について

 5項に示した内容を織り込んで、計画図の作成に取り組んだ。

  既に運河沿いに「水辺の遊歩道」が設置されて、市民に開放されている。ここに、処理水を使用した、「せせらぎの小川」が流れている。従って、処理水のビオトープへの流し方によって、次の3案が考えられる。

(1)  既存の「せせらぎの小川」と水源を同じにする:この場合、現在の「流れ」には、グッピーなどの外来種が生息しているので、新設する「水と音のビオトープ」内も影響を受ける恐れがある。

(2)  既存の「せせらぎの小川」を新設ビオトープ内に別流として通す:ビオトープへの影響は避けられると考えられるが、ビオトープ内の敷地が減少する。

(3)  既存の「せせらぎの小川」と水源と分離する:この場合現在の流れの影響を受けることがない

 この3案を検討した結果、(3)案(水源を独立させる)が、新に創生するビオトープ内の生態系の"設計と維持"に対する考え方が、明確となり、完成前後の生態系についての把握が確実で容易である、との結論に達し、(3)案を採用し、計画図を提案することとした。

 

 次に(3)案を基として、管理センターから、運河をオーバーブリッジで渡ってビオトープに入っていく場合の景観を考慮してA〜Cの3案を計画した。いずれも、水車小屋(水源に置く)を敷地の南西端に設置し、東、西、南の3面に高木を植栽し、高速道路、工場などの、背景を遮断する、奥深さを強調する配置としているが、

A案:給水位置に、滝を作り、流れを2つに分ける。

B案:ビオトープ内に流れを多くするために、池を2つとして流れの全長をできるだけ長くする。

C案:草地を中央に大きくとる。敷地内のビオトープの種類を多くし、ゾーニングも容易にすることができる。

以上の検討から、建設もゾーン別に行えるため、予算に応じて建設し、完成した場所から公開することが、容易であるので、C案を「水と音のビオトープ」の本案として提案する。(今後、運営協議会によって修正されることもあり得る。)

 

主な施設として、次のものを提案する。概要を次のゾーン配置図に示す。

 

6.2. 計画図




6.3.「水と音のビオトープ」基本概念について

 

1)「水と音のビオトープ」の基本概念について以下のように考える。

@自然生態系を構成する樹林と水辺、草地からなり、多様な動植物が生育、繁殖する環境を整える。
A野遊び、山遊び、小川遊び、観察、採集、野生生物との出会いなど、多様な自然とのふれあいを楽しめ、環境教育の場としての機能をもたせる。

 上記の基本概念をもとに、3つのエリアに分け自然環境に配慮した場を創造する。

(1)プレイエリア :人間の活動が優先する遊びのエリア

(2)共生エリア  :人間と野生生物が出会い、ふれあうエリア

(3)ワイルドエリア:小動物(野鳥・昆虫など)の棲息・繁殖を優先する生き物の聖域(サンクチュアリ)となるエリア

 またそれぞれのエリア、ゾーンにおいて、以下の小規模のビオトープを点在させる。

<水辺ゾーン>

 

 

(『自然環境復元の技術』より)

(『学校ビオトープ 考え方 つくり方 使い方』による。)

 (『学校ビオトープ 考え方 つくり方 使い方』による。)

 

7.提言

7.1.建設計画

建設計画は、次表に示すように、5ヵ年計画として、提言したい。

7.2. ビオトープ建設予算についての提言

 地下水がGL−1〜1.5mで湧出し海水を含むことが推測されるため、工事は次の項目を中心に、5ヵ年計画で建設することを提言する。予算詳細は運営協議会で決めることとし、概略の項目を書きに示した。

 @森林形成するための盛り土(高さ約1m)[形態は六甲山系を模する]と、土壌改善のために腐葉土を入れる工事(初年度)

 A高・中低木を植える(初年度に出来るだけ多く、各年度計画的に)

 B池・草地帯、川を整備すること(2年度)

 C水車小屋の設置(5年度)

 

項目

03年度

04年度

05年度

06年度

07年度

基礎工事

設   備

花・木・草

盛り土(池の埋立て含む)

 

 

 

 

池・川などの掘削

 

 

 

浮 島

 

 

 

 

草 地(湿地)

 

 

 

サンクチュアリ(自然維持区域)

 

 

 

 

排水路改造

 

 

 

 

配 管(水・処理水)

 

 

観察デッキ

 

 

 

 

ウッドデッキ/コリドア

 

 

ログハウス

 

 

 

東 屋

 

 

 

 

観察小屋(巣箱含む)

 

 

 

水 車(水車小屋)

 

 

 

看 板(案内・説明)

 

 

 

設備製作用資材(ベンチ)

花 壇

肥 料

高 木(約100本)

 

 

 

中低木(約200本)

 

 

 

花・木・草

 

 

シンボルツリー(梅)

 

 

ビオトープ

林・バードビオトープ

堆肥ビオトープ

樹液ビオトープ

体験ビオトープ

共生ビオトープ

丸太積みビオトープ

バタフライ・ビオトープ

フラワー・ビオトープ

カブトムシ・ビオトープ

落ち葉・小枝積みビオトープ

六甲山系希少種ビオトープ

備  品

管  理

観  察

事  務

備 品(ホース、散水機)

倉 庫

 

 

 

 

管理棟(コンテナハウス)

 

 

 

 

作業道具(シャベル、鋤、鍬、草刈機等)

草刈作業

実験観察器具

生物調査費

電話回線(内線)

 

 

 

 

電話回線(ADSL)

 

 

 

 

OA・情報機器(パソコン、webカメラ等)

印刷費(報告書)

事務雑用品

会 議

予 備

7.3. 「水と音のビオトープ」運営に関する提言

これまでに「水と音のビオトープ」の計画を提言したが、まとめとして、運営に関して次の事項を提言する。

1)人工島であるために、周辺地区を含めて"木"が少ないので、六甲山の形を模した丘に"森"を育て、少しでも都会地に"緑"を増やすことを提言する。"森"と"水"とが増えることにより、鳥が集まり、鳥の鳴き声、姿を楽しむことが出来るであろう。

2)"梅林"の名所とするために、シンボルツリーとして梅を植栽することを、提言する(岡本梅林参考)。現在も所々"梅"が植えられており、将来の成長が期待できる。例えば、ビオトープ予定地南側排水溝の北側法面に"梅"を植栽すると"梅林の道"と成長すると期待できる。

3)体験ビオトープについて、体験ビオトープでは、子どもたち(参加者)が、例えば、3ヶ月に一度、四季の花々を植え替えるとか、泥んこ遊び場を作っては、また壊して新しいビオトープにするとか、そのようなゾーンとすることを提言する。

4)催しもの(イベント)については、現在企画されている「アーモンド祭り」(春)のほかに、「水環境フェア」のような行事を、夏から秋にかけて、企画し運営することを提言する。

5)毎月1回更新するホームページを公開して、広く市民に情報を提供する。また、直接市民の要望を受け入れる掲示板とすることを、提言する。

 

8.施設見学記録

 

 


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