「水と音のビオトープ」計画書
甲南大学文学部人間科学科
平成15年3月26日
1.計画の趣旨
6.「水と音のビオトープ」計画図について
6.1. 計画図の作成経過について
6.2. 計画図
6.3. 「水と音のビオトープ」基本概念
7.提言
7.1. 建設計画
7.2. ビオトープ建設予算についての提言
8.施設見学会記録
市民活動によるビオトープ整備の基本計画書
平成15年3月31日
甲南大学文学部 教授
谷口 文章
1.計画の趣旨
平成7年1月17日の阪神・淡路大震災で、神戸市建設局東部建設事務所水環境センターは、大被害を受け復旧工事を行った。その結果、旧本館跡地が空き地となったので、この地(約2,800m2)にビオトープを建設し地域の環境改善を図ることが決定され、神戸市との契約で、甲南大学が、その基本計画を作成することとなった。
その研究委託の目的および内容は次のようなものであった。それは、東灘処理場旧管理本館跡地に、大学生及び地元住民などを中心とする環境教育をめぐる市民活動により、ビオトープを整備するための基本計画を大学・市民・行政のワークショップ手法で作成する。そのための助言及びワークショップの運営を行うものであった。
その基本構想として、建設予定地は、都会地にあることから、「ビオガーデン」と呼ぶのが適当であろう。六甲山系の環境と周辺の灘浜の海岸とを結び,住吉川と共存したアメニティ空間を創生し、そのなかで子どもから大人までが環境教育を受けられるビオトープを形成する、との考えに立ち、環境復元のために、工場地帯と遮断する「六甲山系を模した森」の中に、高度浄化した処理水を活用した、池、小川、草地帯、水遊び体験ビオトープ、水車、ログハウスなどを設置し、ホタルも飛び交う、「水と音のビオトープ」(仮称)を計画した。
このビオトープは、地域の子どもたちが自然観察、水と小川のせせらぎ、鳥の歌声などを通して、環境に親しみ、実験を繰り返しながら、計画を更新すること(プロセス・プランニング)もできるように配慮している。地域の大人も子どもと一緒になってビオトープを維持発展させることを通じて、豊かな心を培うことが体験できる場を目指している。とくに、地域の特徴を生かし、東灘区の岡本梅林に見られるような名所とするため、梅も多く植える予定である。そしてその全体の景観は、六甲山を模することにする。
2.「水と音のビオトープ」の運営方法
活動内容
@ビオトープの概念づくりと計画
Aビオトープの建設、基盤整備
Bビオトープの維持管理
Cビオトープを使用しての環境教育
D遊歩道「せせらぎの小川」の管理・維持
E催しの主催(水環境フェアなどとの連携)
Fホームページの開設・維持
G活動報告書の発行
Hその他
ホームページは、「水と音のビオトープ」の今までの成果を公開し、各パートナーの連携を緊密にし、広く市民からの意見を吸収し、活動に反映できるように配慮している。毎月1回更新するように考えている。
3.「水と音のビオトープ」のねらい
次に示す、7点に重点をおく。
@六甲山系の鳥、灘浜の水鳥が集まる場所とする。(鳥類の好む花木などを植える)
A東灘の歴史的象徴性のある動植物を育てる(例えば、岡本の梅林等)。
B住吉川の希少植物を育苗する。
C水環境センター内の緑を増やし、水の流れで水車を回す。
水車には臼を設置し、脱穀作業ができるようにする。また、発電もできるようにする。
D風力発電、太陽光発電など自然利用のエネルギー製造のモデルを設置する。
E甲南大学と水環境センターが中心となって、地元の小・中学校の環境教育実践のフィールドとする。
Fひょうごオープンカレッジの修了生の有志が地元の人々と共に、ビオトープ管理・維持を行う実践の場とする。
4.要検討事項と「水と音のビオトープ」の概要
既に、「せせらぎの小川」が開放されていること、等との関連を考慮すると、以下の10項目について検討が必要と考える。
@大木の移植
A高木の入手(道路建設・宅地開発等で切り倒される木を救済できないか。)
Bビオトープ内の池と既設の「せせらぎの小川」との関連
C測量
D設計図
E事務所(プレハブ:できるだけ早期に設置)
F水環境センター内の生物調査
G住吉川の生物調査
H六甲山の生物調査
I既存のものの対処の仕方(アーモンド、グッピーなど外来種)
Jホタル(せせらぎの修復管理、担当者の決定)
3項、4項で検討した内容をふまえて、次のような施設を設置することとした。
@敷地:約2,800m2
A水車を給水口近くに置く
B六甲の森を置く
C高木で周囲のコンクリート建造物を隠す
D草地帯を置く
E希少種育苗の施設を置く
F池を置く
G水遊びの場所を置く
H観察小屋を置く
I東屋、観察小屋などの屋根に太陽光発電パネルを置く
J小形の風力発電機を置く。(街灯を水車、太陽光パネル、風力発電等で点灯する)
K高木の間に低い花木を置く
L遊歩道をめぐらす
M小休止できるベンチをおく
5.神戸市と甲南大学との役割分担について
神戸市建設局東部建設事務所水環境センターと甲南大学谷口研究室とが運営協議会の事務局を構成するが、およその役割分担を次の通りとした。
神戸市 :「水と音のビオトープ」の基盤整備
平日の「水と音のビオトープ」の水・清掃等維持管理
資材確保、場所提供、会議室、市民啓発講座の場、地元の事務連絡、リスク管理
維持管理・整備費
甲南大学:「水と音のビオトープ」の各運営グループを組織化する
「水と音のビオトープ」の維持管理のパートナーシップについての調整役をする
ホームページなどを通じて水環境センターの活動を市民にPR
市民に開かれた環境教育のイベントを企画
市民ボランティアの潜在的環境力を引き出す
甲南大学と水環境センターとの共催で大学において水循環と水の大切さについて
の講習会・シンポジウムを開催(ex.講座:甲南大学、実践:水環境センター)
企画・会議・教育の実践を通じて、地元の小中学校の環境教育を支援する
6.「水と音のビオトープ」計画図について
5項に示した内容を織り込んで、計画図の作成に取り組んだ。
既に運河沿いに「水辺の遊歩道」が設置されて、市民に開放されている。ここに、処理水を使用した、「せせらぎの小川」が流れている。従って、処理水のビオトープへの流し方によって、次の3案が考えられる。
(1) 既存の「せせらぎの小川」と水源を同じにする:この場合、現在の「流れ」には、グッピーなどの外来種が生息しているので、新設する「水と音のビオトープ」内も影響を受ける恐れがある。
(2) 既存の「せせらぎの小川」を新設ビオトープ内に別流として通す:ビオトープへの影響は避けられると考えられるが、ビオトープ内の敷地が減少する。
(3) 既存の「せせらぎの小川」と水源と分離する:この場合現在の流れの影響を受けることがない
この3案を検討した結果、(3)案(水源を独立させる)が、新に創生するビオトープ内の生態系の"設計と維持"に対する考え方が、明確となり、完成前後の生態系についての把握が確実で容易である、との結論に達し、(3)案を採用し、計画図を提案することとした。
次に(3)案を基として、管理センターから、運河をオーバーブリッジで渡ってビオトープに入っていく場合の景観を考慮してA〜Cの3案を計画した。いずれも、水車小屋(水源に置く)を敷地の南西端に設置し、東、西、南の3面に高木を植栽し、高速道路、工場などの、背景を遮断する、奥深さを強調する配置としているが、
A案:給水位置に、滝を作り、流れを2つに分ける。
B案:ビオトープ内に流れを多くするために、池を2つとして流れの全長をできるだけ長くする。
C案:草地を中央に大きくとる。敷地内のビオトープの種類を多くし、ゾーニングも容易にすることができる。
以上の検討から、建設もゾーン別に行えるため、予算に応じて建設し、完成した場所から公開することが、容易であるので、C案を「水と音のビオトープ」の本案として提案する。(今後、運営協議会によって修正されることもあり得る。)
主な施設として、次のものを提案する。概要を次のゾーン配置図に示す。
a案
b案
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c案
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水車の景観
水辺の遊歩道入り口 |
運河のウミネコ |
遊歩道の東屋 |
予定地全景 |
(撮影:オープンカレッジ2期生山形市)
1)「水と音のビオトープ」の基本概念について以下のように考える。
内容:六甲山系における身近な自然環境資源を生かし、動植物の生態観察や、 自然の中での遊びや体験等をとおして環境教育の場として利用できる。 |
@自然生態系を構成する樹林と水辺、草地からなり、多様な動植物が生育、繁殖する環境を整える。
A野遊び、山遊び、小川遊び、観察、採集、野生生物との出会いなど、多様な自然とのふれあいを楽しめ、環境教育の場としての機能をもたせる。
上記の基本概念をもとに、3つのエリアに分け自然環境に配慮した場を創造する。
(1)プレイエリア :人間の活動が優先する遊びのエリア
<草地ゾーン>
(2)共生エリア :人間と野生生物が出会い、ふれあうエリア
<水辺ゾーン>・・・池、草地、小川
<森林ゾーン>
(3)ワイルドエリア:小動物(野鳥・昆虫など)の棲息・繁殖を優先する生き物の聖域(サンクチュアリ)となるエリア
<水辺ゾーン>・・・池、草地、小川
<森林ゾーン>
またそれぞれのエリア、ゾーンにおいて、以下の小規模のビオトープを点在させる。
2)次に上記3つのエリアについて、「水と音のビオトープ」入口から遠景へ向けて展開させる、各ゾーンについて詳述する。
草原には様々な種類の昆虫が棲息している。なかでも、代表的な種類の、バッタやコオロギ、チョウの仲間に加え、トカゲやヘビも棲みつく。草原は、下刈りの頻度や土壌条件の違いによって、その構成種や草丈が異なり、そこに棲む昆虫や小動物の種類も違ってくる。維持・管理のために草刈を年に1〜4回程度行うとよいが、その区域を分け、草刈の頻度を変えることにより、草丈の異なる多様な草地を創出できる。高茎草地では年に1〜2回、低茎草地では年に3〜4回行うとよいだろう。表6.3-1に草地の植生とそこに棲息する代表的な昆虫の種類を示した。
表6.3-1 草地の植生とそこに棲む主なバッタ・コオロギの仲間
植生タイプ |
構成植物 |
バッタ・コオロギの種類 |
高茎草原 |
ススキ・オギ・トシタバ・ノアザミ・ハギ・ヨモギ・オオマツヨイグサ・ネザサ・クズ・ヒヨドリバナ・アキノノゲシ・コマツナギ |
キリギリス・クツワムシツユムシ・マツムシオナガササキリ・スズムシ |
低茎草原(比較的乾いた場所) |
エノコログサ・チカラシバ・スズメノカタビラ・メヒシバ・シロツメグサ・イヌタデ・カゼグサ・オヒシバ・スズメノヒエ・カタバミ |
クサキリ・ツヅレサセコオロギ・ミツカドコオロギ・エンマコオロギ・マダラスズ・シバスズ・ヒシバッタ・イボバッタ・ショウリョウバッタ・オンブバッタ・トノサマバッタ |
低茎草原(比較的湿った場所) |
スズメノテッポウ・タガラシ・ミゾソバ・ヒデリコ・スギナ・テンツキ・コケオトギリ・オモダカ・アソボソ |
ヤチスズ・ケラ・トビケシバッタ・ハネナガヒシバッタ・ヒシバッタ・ツチイナゴ・コバネイナゴ |
またチョウが定着し、発生するためには、幼虫の餌となる植物が自生していることがその条件になる。草地に棲息する主なチョウの種類とその食草例を表6.3-2に示した。
表6.3-2 草地に棲む主なチョウの種類と食草
チョウの種類 |
食草 |
コジャノメ・ジャノメチョウヒメジャノメ・イチモンジセセリ・チャバネセセリ |
(イネ科)ススキ・チジミグサ・スズメノカタビラ・メヒシバ・クサヨシ・エノコログサ・チガヤ・メヒシバ・イネ・アシボソ |
ツマキチョウ・モンシロチョウ・スジグロチョウ |
(アブラナ科)タネツケバナ・イヌガラシ。 ナズナ・イヌナズナ |
モンキチョウ・キチョウ・ルリシジミ・ウラギンシジミウラギンシジミ・コミスジ |
(マメ科)カラスノエンドウ・シロツメクサ・ メドハギ・ハギ・ムスビトハギ・クズ・ クララ・フジ・ネムノキ |
キアゲハ |
(セリ科)セリ・ミツバ・ウド |
ヒメアカタテハ |
(キク科)ヨモギ・アザミ |
キタテハ |
(クワ科)カナムグラ |
ベニシジミ |
(タデ科)ギシギシ・スイバ |
ヤマトシジミ |
(カタバミ科)カタバミ |
コムラサキ・コヒオドシ |
(ヤナギ科)マルバヤナギ・ネコヤナギ・ シダレヤナギ |
ナミアゲハ・クロアゲハ |
(ミカン)サンショウ・カラタチ |
鳥類に関していえば、いくつかの植生のタイプにまたがって生活していることが多い。飛来地としては、まず、1ヶ月または2ヶ月毎の草刈が継続され、タンポポ、ハコベ、ヒメジオン、メシヒバ、イヌビエ、スギナ、ヨモギ、ツメクサ、オオバコ、カタバミ、ギシギシ、ヨメナ、イタドリ、ハルノノゲシ、アキノノゲシ、イヌタデ、オオマツヨイグサなどから構成される丈の低い草地では、カシラダカ、ツグミ、ヒメジオン、カワラヒワ、ヒバリ、ムクドリ、キジバト、キジなどが餌を食べに訪れ、そのような草地の草陰ではヒバリが巣をつくる。
年1〜2回、または5〜10年1回程度の草刈が継続され、ススキが群生しヌルデ、クサギ、アカメガシワ、アカザ、コンフリー、スイバが茂る植生には、カシラダカ、ホオジロ、アオジ、クロジ、ジョウビタキが好んで降り立ち、草間では、キジやホオジロの巣づくりも行われるだろう。
さらに10年以上放置していると、ヌルデやアカメガシワのほか、ネズミモチやコナラなどといった雑木林の構成種が繁茂してくる。このような植生は、ウグイス、ヒヨドリ、コジュケイの営巣地となるほか、シジュウカラ、メジロ、エナガ、ヤマガラ、コジュケイ、シメなど樹林地性の野鳥の食餌や休憩の場所にもなってくる。
アカタテハ |
キンポウゲとベニシジミ |
1.水辺の自然環境
水辺に棲息する生き物は、水域では水棲昆虫や魚類、付着藻類などであり、陸域では昆虫や鳥類、植物などである。これらの生き物はそれぞれにおいて食物連鎖の関係にあり、水辺の生態系を考える際には、こうした生物相互の関係を視野にいれなければならない。そのためにも、不規則で複雑な形にしたり、場所によって水深を変えるなど、水辺に様々な変化をもたせる必要がある。そうすることで生き物に隠れ家や産卵場所など、様々な場所を提供することにつながり、生物相が豊かになるだろう。
自然度の高い水辺の自然環境をつくり出す基本的な要素は植生である。池や小川の縁を取り巻く湿り気の多い陸地や、その先の浅い水中に生育する植物の種類が多く、群落の面積が広く、そして高木や低木が混じるなど、群落の構造が複雑になればなるほど、棲息する動物の種類も多くなる。
2.水辺と水中の植物
水辺と湿地とそれにつながる浅瀬帯に生育する植物には、様々な生活形があるが、水域では抽水植物、浮葉植物、沈水植物、浮遊植物に大別され、さらにそれに続く陸域では湿生植物がある。それらの水棲植物の分類を図6.3-1に示した。
図6.3-1 水生植物の分類
以下にそれぞれの代表的な種や特性について述べる。
(1)抽水植物
抽水植物は、水底の土の中に根や茎を伸ばし、茎や葉を水面から上に突き出して生育する植物で、ヨシ、マコモ、ガマ類(ガマ、ヒメガマ、コガマ)、フトイなどが全国に広く分布する代表種である。ミクリ、ハス、コウホネ、ウキヤガラなども各地に生育する。オモダカ、ミズアオイ、ミツガシワ、エンコウソウ、ホタルイ、サンカクイなども小型の抽水植物である。
ヨシ、マコモ、ガマ類のような、分布の広い大型の抽水植物は、生態、景観、水質の浄化、護岸などの様々な面で、水辺の草本群落の常用な位置を占める。その他の主も、植生を多様にしてその質を高める効果がある。ヨシやガマなどは繁殖力が大きく、移入を慎重に行なう方がよいだろう。
抽水植物は、水域と陸域の両方に棲息していることから、まわりの湿地にも成育し、川や池、湖いずれの水辺でも、重要な役割を担っている。
(2)浮葉植物
浮葉植物は、水底の土の中に根をおろし、茎や葉柄を伸ばして葉を水面に浮かべる植物で、ヒシ類(ヒシ、オニビシ、ヒメビシ)、アサザ、トチカガミ、ヒツジグサ、ジュンサイ、ヒルムシロなどが全国に広く分布する代表的な種類である。
浮葉植物の群落は、沈水植物とともに、魚の産卵および稚魚の成長に必要ないわゆる藻場をつくるほか、トンボや両生類の繁殖環境としても重要である。またアサザやヒツジグサなどの花は、水辺の景観に趣をそえ、ジュンサイの若芽は季節を感じる料理として食卓に花をそえる。
(3)沈水植物
沈水植物は、茎も葉も水中に沈んで生育する植物で、ヒルムシロ科の多くの種類(エビモ、ヒロハノエビモ、ヤナギモ、リュウノヒゲなど)、ホザキノフサモ、クロモ、オオカナダモ、コカナダモ、セキショウモなどが各地に広くみられる。沈水植物の群落はよい藻場をつくるほか、水鳥の餌にもなる。沈水植物のうち、エビモ、コカナダモ、セキショウモ、ミズハコベなどは、流速が速くなく、川底が安定している小川にも育つ。またエビモ、コカナダモ、セキショウモなどのように花を水面に出して咲かせる種類が多い。
沈水植物は、湖が富栄養化して湖水の透明度が低下すると、その分布範囲が後退し、さらにはアオコが大量に発生するようになると消滅することもある。
(4)浮遊植物
浮遊植物は、根がなく、浮き漂って生活する植物である。小さいものではウキクサ類やサンショウモ、大きい植物ではホテイアオイがある。タヌキモやマツモは水中に沈んで漂っている。ホテイアオイは熱帯原産の帰化植物で、日本でも暖地では越冬し、夏から秋にかけて大繁殖するので、始末に困るため、水辺の自然植生づくりには用いない方がよい。
(5)湿生植物と湿地林
湿地にはヨシやマコモのような抽水植物も進出するが、スゲ類、クサヨシ、ツルヨシ、セリ、ヤナギタデ、ミゾソバ、オギなど多くの種類の湿生植物が群落をつくる。中でもスゲ類は、多年生で密生した群落をつくり、水辺の自然環境と景観をつくる重要な草本植物である。
湿地の植生の中では、樹木も重要な構成要素である。川原や湖岸の比較的新しい湿地には、ヤナギの仲間が優先する。ネコヤナギやイヌノコリヤナギ、ジャヤナギ、アカメヤナギ、オオバヤナギなどは高木で、本州の各地に広く分布し、水辺の景観や植物群落の構造を豊かにしている。
表6.3-3に水辺の植物群落のはたらきを示した。
表6.3-3 水辺の植物群落のはたらき
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水辺林 |
湿生植物群落 |
抽水植物群落 |
浮葉植物群落 |
沈水植物群落 |
水質の浄化 |
○ |
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野生生物のすみ場をつくる |
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岸辺の侵食を防止する |
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生活や農業に役立つ |
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美しい水辺の自然景観をつくる |
○ |
○ |
○ |
○ |
△ |
注)〇:そのはたらきがある
△:そのはたらきが少しはある
水辺の生き物の代表種は、トンボやゲンゴロウ、アメンボ、ホタルなどの昆虫類やカエル、イモリなどの両生類、フナやメダカなどの魚類である。トンボやゲンゴロウ、アメンボ、カエル類などの移動力の強い生き物は、時間が経てば自然に移り棲んでくるだろう。なかでも、ギンヤンマ、シオカラトンボ、ショウジョウトンボ、アキアカネなどの飛翔力の強いトンボ類やコシマゲンゴロウやアメンボなどの水棲昆虫は、早い時期から定着することが多い。
さらに、年1〜4回3回下刈りが継続されることで、セリやイヌビエ、ミゾソバなどが群生し、水面がモザイクに点在する低茎の湿地が作られる。そこには鳥類が集まり、カエルや小魚、昆虫の幼虫などを食べるコサギやチュウサギ、ゴイサギ、カイツブリ、タシギ、ヒクイナなどの格好の餌場である。またタマシギなどはこれらの場所で、営巣し雛を育てる。
このような池では、秋から早春にかけてマガモやコガモなどのカモ類がやってくるようになる。
このように自然生態系を継続させていくためには餌場や生殖の場をつくることが重要で、池の縁には、少し太めの朽木を1〜2本置き、先が水面から少し突き出すようにしておくとよい。これらは、水中の小魚やカエルを狙うカワセミやサギなどの待ち伏せ時の止まり木として使用されるほか、トンボなどの水接昆虫の羽化場所や、その成虫の休憩場としても活用される。
@)利用者のスペース:視界が開け野鳥などの観察が容易
A)野鳥などの小動物のスペース
:人が入りにくい構造
生き物の隠れ場となる
トンボの誘致はほとんどの場合、既存の生息地で発生したトンボの移動力に依存することができる。特殊な場合を除くと既存の棲息地で発生したトンボの移動力に依存することができる。誘致により、遺伝的に分化した地域個体群の人為的かく乱を防ぐことにもなる。そのためにもトンボの生活史を考えた棲息環境を整えることが重要となる。
1)生態系づくり
トンボは卵から幼虫を経て成虫になる不完全変態の昆虫であり、その大半が幼虫時代を水中で生活している。成虫も羽化後は一定期間水辺を離れる種が多いが、成熟するとたいていは同じ水辺に戻ってくる。したがって、トンボの棲息する環境を整えることは、トンボの生活史を加味した上で生態系を形成させることである。土や水、植物が一体となった植生を基盤とし、水辺に棲息する様々な生き物から構成される食物連鎖を形成させ、このような系の中で、それぞれの生き物が自力で餌をとり、世代を繰り返すことが可能な環境を作り出す。
生き物の中には、ユスリカ、カなどの不快な生物も含まれている。これらは食物連鎖によって異常発生が抑制されるように、各種の生き物が生息する生態系づくりを目指し、それが可能な環境条件を設定することが重要である。
初めは食物連鎖が未熟なため、ユスリカや、カが異常発生することがあるが、この対策としては、その幼虫を捕食するメダカを放魚する方法がある。トンボなどが定着し生態系が形成され始めると、それらの異常発生を押さえられる。
2)トンボの発生環境と生活環境
シオカラトンボ、ウスバキトンボ、ギンヤンマ、アキアカネなど都市部でもよく見られるトンボ類は、学校のプールやコンクリート張りの水路のように、水辺や水面に植生の存在しない人工的な場所にも産卵に飛来する。卵から孵化した幼虫は、羽化するまでの期間、この水面下で成長することができる。しかし、成虫が水面になわばりを形成したり、静止する条件のない場合には、羽化した成虫は周辺へ飛散し、その場所にとどまらないことが多い。
したがって、羽化した成虫が、その水域で定着するためには、水面にアサザやヒツジグサなどの浮葉植物や、マコモやコウホネなどの抽水植物を植栽することにより、産卵から羽化、生殖、産卵までの一連の活動が行われる生活環境をつくることが重要である。
このような植栽は、イトトンボやヤンマ類のように、植物の組織に産卵するトンボの誘致に効果があるほか、根茎部の入り組んだ構造は、肉食であるトンボの共食いを抑え、成虫にまで成長する個体数を増加させる上でも役立つ。このような典型的な水辺のモデルを次頁に示した。
(『自然環境復元の技術』より)
環境への生態学的アプローチで一般的なものは、植物社会学的アプローチや食物連鎖からのアプローチであるが、生活史空間のアプローチも重要である。自然環境に模して仕上げられた環境整備も、各生物の生活ステージのある条件を欠くために食物相を貧弱にしている例は多い。ホタルなどその典型であろう。ここで、順序を追ってゲンジボタルの生活史を環境との関わりで示すこととする。
1)ゲンジボタルの生態
@)ホタルの種類
現在、日本で44種3亜種のホタルが記録されているが、中でも特に親しまれているのは、ゲンジボタルとヘイケボタルの2種である。とりわけ光の強いゲンジボタルは日本におけるホタル文化を代表するホタルであろう。ホタルは文学作品などにも多く用いられて人気の高い昆虫ではあるが、その飼育は難しい。
ゲンジボタルは流水性、ヘイケボタルは止水性で、日本では両種だけが幼虫期に水中で生活する水生ホタルである。ホタルの大部分は陸生で、水生のものは世界でも珍しい。体長はゲンジボタルで雄が約1.5cm、雌が約1.8cmである。ヘイケボタルはそれよりやや小型である。なお、近年、ゲンジボタルの発光パターンが約2秒の西日本型、約4秒の東日本型、そして約3秒の中間型の存在が発表されている。都会地などで新規のホタル幼虫を放流する場合にはこのような地域的変異が混乱されないよう十分配慮しなければならない。また幼虫の飼育には困難を伴うので、根気よく試みることが大切であろう。
A)成虫の生活空間
ゲンジボタルは地域により発生期が異なる。年により1週間くらい前後するが、近畿ではおおむね5月初旬から7月初旬であろう。ヘイケボタル成虫の出現期は長く、5月から11月頃までである。ただしピークはやはり5月から7月である。年によって出現期が異なるがこれは3月から6月の雨と気温に影響されるようである。幼虫がさなぎになる際に上陸する頃の雨と気温、さなぎの期間の気温、そして成虫が出現する頃の雨と気温が複雑に関係してその年の出現の日が決まるのである。
ゲンジボタルの場合、発生パターンは山型をなしており、発生数が多くなるのは、2〜3週間目7日程度である。さらにピークは2〜3日となる。成虫は採食せず、葉先などの夜露を吸うだけである。成虫の最大寿命は2〜3週間であるが、自然界では平均約1週間程度であろう。飛翔によるエネルギー消費やクモなどの外的に捕食されるためである。なお、雌雄の発生比率は1:3から1:5で雄が圧倒的に多い。飛翔しているのはほとんど雄で、雌は草むらでじっとしていることが多い。
生活域は、中小河川の中流域、用水路、谷戸の細流などが主である。成虫の生活環境のポイントとなるのは、飛翔空間と休息場所である。ゲンジボタルの飛翔距離は、最大数百mとの記録もあるが、一般的にはあまり移動性のない生物と考えてよい。少しずつ生活域を広げていくことはあるが、適した地点であれば毎年同じ場所で発生する。川幅が広くない場合には、十分に飛び交うことのできるオープンランドがある方がよい。ちなみに全国の主要な発生場所では、河川、用水路、細流のタイプに関わらず、流水路をはさんで片側が山林、他方側が水田などのオープンランドという空間構成が多い。
成虫の休息場所も重要な環境条件である。飛翔の合間に葉の表に止まり、日中は葉の裏などで休眠している。日陰は重要であり、草や潅木も使われるが、樹木が多いほど休眠場所を多くつくる。樹木に接している時は樹木の選好性はあまり見受けられないが、樹林を構成していない時には水辺の大木を好む。
2)交尾・産卵の環境
@)交尾の環境
交尾は主に、川岸の草むらや潅木の葉上で行われる。交尾環境において重要なことは、暗さの確保である。ホタルの発光は、雌雄のコミュニケーションであり、明るいとそれが困難になるからである。従って人工的に飼育する場合、飼育舎にメッシュの細かい網を覆うとよいだろう。
A)産卵場所
ゲンジボタルは交尾後、2〜3日のうちに産卵を終える。産卵数は500〜1000個で大きさは直系0.5mm、円形で黄色味を帯び粘液に覆われている。そのため雨水などで容易に流出しないが乾燥には弱い。
産卵場所は、孵化幼虫がすぐに水に入れる位置にあるやわらかいコケが普通である。コケの表面より、中に埋め込まれている感じである。これまでに産卵が観察されたコケの付着場所として、樹木の根際、護岸の石、木道、草むらの土などが知られている。一般にコンクリートには産卵に適したコケがつきにくい。スギゴケのような柔らかくフサフサしたコケが生えるのは、水辺の木陰などの直射日光を受けず湿度の高いところで、かつ通風のよい場所の木や石の上である。
適したコケさえあれば産卵するのかというと、必ずしもそうでもない。ゲンジボタルの場合はその他の不明な条件によって左右されるようである。一方、ヘイケボタルは、かなり適応性に富み、例えばコケがなければ草や土に産卵するようである。ゲンジボタルを殖やすためには可能な限り不自然にならないように、コケができやすいような条件の場所をつくり出すほかはない。一般的に石や岩の場合、流量が多くて水しぶきがいつもかかるようなところでないといいコケは着きにくい。流量の少ないところでは、木質のものがコケの生育に適しているようである。
3)幼虫と水環境
@)カワニナ
産卵から孵化までは約1ヶ月である。孵化幼虫は川から落ちてそこから、約9ヶ月間の水中生活に入る。その間、6回脱皮を重ねて冬を越した後、3月から5月頃に陸に上がって地中に潜りこみ、そこでさなぎになる。一生を通じて摂食するのはこの幼虫期だけである。餌は流水に棲む淡水性巻貝のカワニナで、体長に見合った大きさのものを食する。
ゲンジボタルの発生規模は、カワニナの賦存量に直接的に影響される。摂食量は、人工飼育下のデータで、幼虫一匹あたり9ヶ月間で親貝に換算して10〜15個くらいが普通である。幼虫の生存率、体長に合ったカワニナ、カワニナの生存率や世代交代に必要な量などを勘案すると、実際には摂食量の数倍以上のカワニナの賦存量が必要となる。
おそらく、ある程度の発生数を期待して整備しておく場合には、50平方センチメートルに対するカワニナの棲息密度30個体が最低限必要であろう。底面にカワニナが密生しているとよいだろう。カワニナの主な食餌は、付着藻類、水草類、および落葉などの植物質である。飼育下では野菜くずなども好む。
A)水質
水質の第一条件は化学物質による汚染のないことである。ホタル幼虫、カワニナとも、農薬や合成洗剤などの化学的汚染にはきわめて敏感である。第二条件は、DO(溶存酸素量)がつねに飽和状態に保たれていることである。DOは、河床匂配のあるところでは木杭、河床の小石などによる小落差溝の設置により流れを乱し、空気との接触機会を増やしてやることにより、ある程度増加させることができる。
水量の少ない細流などでは注意を要するのは、水温対策である。幼虫、カワニナとも高温に弱い。適温は10度(冬期)〜20度(夏期)である。下記の水温上昇を避けるために、樹木で覆い直射日光があたらないようにする工夫がいる。
B)河川形状
流速、水深については、流速10〜30cm、水深5〜30cmとなっているので、それが一つのめやすとなっている。おもな留意点は、流速、水深を単調にしないことである。川には瀬や淵や中州があり、浅いところと深いところ、流速の速いところと遅いところと非常に多様である。このような多様性がポイントである。小河川でもホタルの主たる発生場所は、草の繁った川原や中州のあるところが多い。単調な用水路などでは、カワニナが大量にいても、ホタルの発生は難しい。
ゲンジボタルの幼虫 |
オス(左)とメス(右) |
表6.3-4 ホタルの生息条件
区 分 |
条 件 |
|
水 環 境 |
水 質 |
○農薬、合成洗剤、工場用水などの汚水が混入していないこと。 |
水 温 |
○適温は、10℃(冬期)〜20℃(夏期)の間、最高25度程度がよい。 |
|
流 速 |
○10〜30cm/秒程度がよいとされるが、緩急の変化があるのがよい。 |
|
水 深 |
○表面流から100cmの深いところまで幅広く生息するが平均5〜30cmが多い。重要なのは河床にもDOが十分に存在するかどうかである。 |
|
底 質 |
○一般的には玉石ないし、転石あるいは礫質ないし砂礫質、あるいはこれらの組み合わせがよいとされているが、重要なのは、底質それ自体でなく、底質条件と他の環境条件、とくにカワニナのエサ条件との間にどのような相互関連をもたせるか…礫質のときには付着藻類、泥質のときには落葉…である。 |
|
水路形状 |
○基本は、可能な限り変化に富んだ多様な形状がよい。横断面が、瀬、淵、川原、中州など変化に富んだ組合せとするのがよい。さらに水路と湿地が一帯になっていると非常によい。 |
|
水 際 環 境 |
のり面、護岸の素材 |
○のり面ないし護岸の素材は土が最も適している。土以外で護岸する場合には木材や石材の自然材を用いる。どちらかといえば木材の方が、石材よりもよいようである。護岸素材および工法のポイントは、土中成分の連続性がありコケの付着のよいこと |
のり面の勾配と高さ |
○幼虫の上陸に影響するのり面における最適勾配といえるものはなさそう。 |
|
水 際 線 |
○直線的ではなく、いろいろ入り組み、変化に富むのがよい。 |
|
空 間パターン |
○水路をはさんで片側が斜面(林)、反対側が水田などのオープンランドというパターンがよい。 |
|
植 生 |
○斜面の植性はクヌギ、コナラ、ミズキなどのいわゆる雑木林を構成する落葉広葉樹の高木があることが望ましい。 |
|
周 |
規模おび立地 |
○ホタルが自然発生できる環境の範囲として、ホタルの実際に生息範囲だけでなく、その背景となっている空間も考慮する必要があり、谷戸の場合のめやすは集水域である。 |
水 路 長 |
○水路は可能な限り長い方が望ましい。数十mから100m以上あれば、より安定する。 |
|
周辺土地条件 |
○片側が雑木林(斜面林)、他方が水田が基本形である。水田以外では湿地(休耕田)の方が畑(草地)よりもよいようである。また水路に農薬の影響のないことが重要。 |
|
生 物 環 境 |
○ホタルの生息環境づくりというとホタルとカカワニナの生息条件だけに着目しがちであるが、生態系を豊かにすることをめざす。 |
2003.1.11. 甲南大学 谷口研究室 1. 見学日時:2003.1.11.(土)10:00〜12:20 2. 見学場所:「あまがさきホタルの里」(尼崎市宮の北公園内) 3. 面会者:前田氏;尼崎市ホタルを育てる会 草薙氏; 4. 出席者:東灘・水環境センター;古川 学校ビオトープ協議会;赤尾 甲南大学 ;谷口、天野、渡辺、山田、岡田、小山、桔梗、楠、藤井、上村、大村、田口 5. 見学概要 前田氏、草薙氏の案内で、「あまがさきホタルの里」現地を1時間強見学し、市役所武庫支所会議室で、約1時間ホタルの飼育について、説明を受けた。 概要は以下の通りである。 5-1.現地見学の概要 (1)ホタルの里は、尼崎市武庫地区の武庫川堤防沿いにある。(添付 平面図参照)もともと、水田灌漑用の水を、取水していた場所である。「六樋(ろくひ)」といわれていた。 (2)「へた地」であったところを昭和59年、琴の浦ライオンズクラブがホタルを飛ばそうと計画した。(昭和40年代前半まで、ホタルが飛び交っていたことから、再現を試みた。) (3)文化の伝承、地域との交流を目指した。 (4)水路は、長さ約110m、幅約2mで、上流は流れをゆるやかにし、流水が石にぶつかり水が飛散することによって酸素が溶解し、ホタルの幼虫のえさである「カワニナ」が生育しやすいようにしている。ホタルの幼虫の成長と、「カワニナ」の成長の時期と合わせていて、幼虫が、「カワニナ」の小さいときに食べられるように流れを構成する工夫がほどこしてある。川底などは、武庫川の浚渫を行ったときに、5cmぐらいの石を譲り受け並べている。上流では「よどみ」をつくり、石の裏側で幼虫が孵化しやすいようにしている。この時期に小さい「カワニナ」がえさとして必要になるのである。ホタルは、4月の中旬に水際の草に這い上がり、羽化し、5月中旬から、8月中旬にかけて飛び交うようになる。「カワニナ」は苔類を食べるが、飼育の当番をしている人々が、りんご、さつまいも、キャベツ、白菜などを与えている。水温は25℃以下が好ましい。30℃以上では死んでしまう。 (5)ホタルの卵の成虫への生育率は非常に低いので、川の流れだけでなく、幼虫飼育小屋(2間×2間ぐらいの広さで網を張り暗くした小屋)を取水口直近に設置している。観察小屋(1.5間×2間)を飼育小屋の隣に設置している。 5-2.武庫支所会議室での説明 (1)生態と文化のふれあいをねらい、環境と文化(行政、権利者、市民)を作ることを目標に「ホタルをまもる会」を1984年(昭和58年)に発足させた。当時は公害問題がようやく、落ち着きはじめたころで、琴の浦ライオンズクラブを中心に発足させた。当時の市役所農政課の職員に関心の強い人がおり、山口市、市の川(ホタルが乱舞していた)から、幼虫をもらい、2000匹を放流した。そして1986年に初めてホタルが飛んだ。 (2)ホタルの水路は、敷地が、平均幅11mで全長160m(うち、110mが水路)で2,000m2ある。石積み(くずれ積み)幅1.5m〜2m(平均1.75m)、水深0.3mである。網室、飼育小屋、トンボ池を併設している。 (3)「ホタルの里」のねらい・特徴は次の通りである、 (ア)ホタルの環境、自然環境の復元 (イ)地元との良い協力関係がある。団地1,000世帯(町会)で普段の維持管理(町民)、定期的管理・点検がなされている。フェンスは必要(荒らされないために)である。 (ウ)地域の交流としては、加古川、上荘、八千代川、多可郡などとのつきあいがある。5,6月に市民の要望がで、ホタル鑑賞会をしたこともある。西宮・神戸あたりから、2,000人程集まった。 (エ)ホタルの一生(ゲンジホタル)は、概略次のとおりである。 成虫:5月中旬(5月10日ごろ、早いときは連休明け)から、5月いっぱい、何回か、何十匹づつ発生する。 産卵:苔のむした石に、適当な日に産卵する。卵の状態で回収する。成虫は捕まえて交尾産卵させる。(5月末)卵は1ヶ月で孵化して(一粒数ミリ)水中に棲み、次の年の4月に水からあがってくる。一匹のホタルが500個の卵を生むが、2%ぐらいしか成虫にならない。 幼虫:えさは、「カワニナ」だけである。「カワニナ」の大きさ(生長)と合わせる(サイクルを)→10数ヶ月で脱皮して3cmぐらいになる。翌年の7月下旬。 (オ)ホタル飼育の条件:・水の環境(きれいなこと)・産卵の環境・成虫の生活環境・幼虫の生育環境・外敵がある。 (カ)「カワニナ」の養殖:りんご、さつまいも、じゃがいも、などを餌とする。アメリカザリガニが天敵(他にはいない、カメムシ科で魚がよりつかない)。人間の食べ残し(はくさいなど)がある。人間の生活に近いところ、民家の近いところがよい。ここでは、武庫川の水をろ過して使用している。水質は、BOD=1ppm程度でよいが酸素が必要。(流れに段差があると良い) (キ)我々がホタル飼育に取り組む際のアドバイス: @水質が問題;処理水はBOD=1ppmと少ないが、富栄養で藻が大量に発生しやすい。 A池を作るとトンボも生息するようになって、良いであろう。 B水路を作ったあと、できるだけ水をかきまわす。----浄化も含めて(遷移状態)刺激を与えるとよい。大事にしすぎるとダメである。
|
六甲山系を模した里山を構想した場合、薪炭林としてのクヌギ、コナラなどの純林が整然としている姿が一般的であろう。しかし、ヤマザクラやクリ、クスノキ、クロモジ、ズミ、ヌルデ、ムラサキシキブ、エノキ、オニグルミ、コブシ、シデ、エゴノキ、リョウブなど、多様な落葉広葉樹が混合する方が、生き物の棲息空間としてより効果的である。
一方、常緑広葉樹も林種の多様性の点で重要な要素であり、固有の生態系を成立させる。このことは、冬季の野鳥の隠れ場や緑景観の確保の点でも効果がある。
以上のように、落葉広葉樹を中心に、多様な林種を共存させるのが理想的である。特に六甲山系南斜面の樹林や潜在自然植生などを参考にどのような植生にするか考えるとよい。
まずは、階層構造をつくるということが重要である。林内は高木となる種類だけでなく、中低木や草本などの林床植物もあわせて考える。
二つめは林縁部植生をつくるということである。自然の樹林や林縁部では、通常日当たりの良いことから中低木やツル性植物がヤブをつくる。ヤブは見た目によくないと思われることが多いが、林内を乾燥や風雨から守り、気温や湿度を一定に保つなど重要な役割を担っている。表6.3-5に六甲山の主な樹木・草本例を示した。
三つめは植物の開花時期を考えるということである。年間を通して、いずれかの種類の植物が開花していれば、昆虫や鳥類などの誘引が容易である。表6.3-6に植物の花の咲く時期と実のなる時期を示した。
最後に植物と昆虫の関係を考えるということである。草食性昆虫の中には、決まった種類の植物にだけ訪れるものも多い。草食性昆虫と植物の関係からも、植栽する樹木や草本を考える(表6.3-7)
図6.3-4 ウバメガシ群落
ウバメガシ群落は高木層にウバメガシが優先することで特徴付けられているが、種類組成的にはアラカシ群落とよく似ている。高木層の高さは10m前後で、それほど高くない。低木層にはヒサカキ、カクレミノ、ネジキ、モチツツジ、コバノミツバツツジなどが見られる。草本層の発達は悪く、種類は貧弱でテイカカズラやイタビカズラ、コシダが生育している程度である。
この群落は、本来は海岸の崖地などの極相群落で、一般的に、尾根筋や崖地などの土地的に条件の悪いところにとどまり、条件のよいところは将来はアラカシ群落に移行していく。
表6.3-5 六甲山の主な樹木・草本例
雑木林の中
|
高木 |
コジイ・スダジイ・アカガシ・ウラジロガシ・アラカシ・シラカシ・ブナ・アベマキ・コナラ・クヌギ・クリ・カゴノキ・クスノキ・シロダモ・ヤブニッケイ・モチノキ・クロガネモチ・ナナメノキ・アオハダ・モッコク・ヤブツバキ・ヒメユズリハ・アカメアガシワ・イロハモミジ・ウリハダカエデ・イタヤカエデ・ヤマモモ・アキニレ・エノキ・ケヤキ・ムクノキ・ヤマザクラ・カスミザクラ・ウラジロノキ・ノグルミ・ニセアカシア・ネムノキ・ハンノキ・イヌシデ・コシアブラ・タカノツメ・カクレミノ・ホオノキ・マルバアオダモ・エゴノキ・クマノミズキ・リョウブ・ など |
中低木 |
ネズ・サカキ・ヒサカキ・ネズミモチ・ヒイラギ・ソヨゴ・アセビ・ネジキ・カマツカ・カナメモチ・ウバメガシ・カラスノザンショウ・タムシバ・シキミ・ヤマハゼ・ヤマウルシ・ヤマボウシ・シラキ・ヒメヤシャブシ・モチツツジ・コバノミツバツツジ・シロバナウンゼンツツジ・シャシャンボ・ナツハゼ・スノキ・コガクウツギ・ヤマアジサイ・コアジサイ・ヤマウグイスカグラ・ガマズミ・ミヤマガマズミ・ヤブムラサキ・コマユミ・ツリバナ・イヌツゲ・ウメモドキ・タンナサワフタギ・イソノキ・ヤツデ・クロモジ・ヤマコウバシ・アオキ・ナガバモミジイチゴ・ナンキンナナカマド など |
|
林床植物 |
イヌガヤ・コウヤボウキ・ヤブコウジ・シハイスミレ・シュンラン・イワカガミ・ジャノヒゲ・ナガバジャノヒゲ・ヤブラン・ササユリ・チゴユリ・ホウチャクソウ・ヒヨドリバナ・ススキ・チヂミクサ・ノガリヤス・オカトラノオ・ヒカゲスゲ・ヒメカンスゲ・スズタケ・オオイタチシダ・シシガシラ など |
|
林縁部
|
中低木 |
ゴンズイ・ハゼ・ヌルデ・ヤマウルシ・モチツツジ・ウツギ・ツクバネウツギ・コツバネウツギ・ヤブウツギ・タニウツギ・ムラサキシキブ・ヤブムラサキ・クサギ・ツクシハギ・マルバハギ・コマユミ・ツリバナ・タラノキ・クロモジ・ノイバラ・クサイチゴ・ナワシロイチゴ・ナガバモミジイチゴ・コゴメウツギ・ナワシログミ など |
草本 |
タチツボスミレ・シハイスミレ・ホタルブクロ・ヤブカンゾウ・キクバヤボクチ・シラヤマギク・シロヨメナ・ヒヨドリバナ・ススキ・トッダシバ・チヂミキサ・ノガリヤス・オカトラノオ など |
|
つる性植物 |
ミツバアケビ・サネカズラ・マタタビ・ノブドウ・アオツヅラフジ・フジ・スイカズラ・イワガラミ・サルトリイバラ・ヤマノイモ・オニドコロ・クズ・ノササゲ・カナムグラ・ヘソクリカズラ・ツルリンドウ・ホソバウマノスズクサ・センニンソウ・ヒヨドリジョウゴ など |
表6.3-6 植物の花の咲く時期と実のなる時期
種 名 |
高さ |
開 花 時 期 |
分 布 |
|||||||||||
|
m |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
1月 |
2月 |
3月 |
|
<常緑高木・小高木> |
||||||||||||||
シラカシ |
〜20 |
★ |
★ |
|
|
|
|
● |
|
|
|
|
|
本、四、九 |
ウラシロガシ |
〜20 |
|
★ |
|
|
|
|
翌● |
|
|
|
|
|
本、四、九、琉(奄、沖) |
シロダモ |
10〜15 |
|
|
|
|
|
★ |
★ |
翌● |
|
|
|
|
本、四、九、琉 |
ヤブツバキ |
10〜15 |
★ |
|
|
|
|
|
● |
|
|
|
★ |
★ |
本、四、九、琉 |
<落葉高木> |
||||||||||||||
ハンノキ |
〜20 |
|
|
|
|
|
|
● |
|
|
|
|
★ |
北、本、四、九(長崎、佐賀)、琉 |
タチヤナギ |
10〜15 |
★ |
★ |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
★ |
北、本、四、九 |
オニグルミ |
〜25 |
|
★ |
|
|
|
|
● |
|
|
|
|
|
北、本、四、九 |
コナラ |
15〜20 |
★ |
|
|
|
|
|
● |
● |
|
|
|
|
北、本、四、九 |
クヌギ |
〜15 |
|
★ |
|
|
|
|
翌● |
|
|
|
|
|
本、四、九 |
イヌシデ |
〜20 |
★ |
★ |
|
|
|
● |
● |
|
|
|
|
|
本、四、九 |
アカシデ |
〜14 |
★ |
★ |
|
|
|
|
● |
|
|
|
|
|
北、本、四、九 |
エノキ |
15〜20 |
★ |
★ |
|
|
|
|
● |
|
|
|
|
|
本、四、九 |
クリ |
15〜20 |
|
|
|
★ |
|
● |
● |
|
|
|
|
|
北(西南部)、本、四、九 |
コブシ |
5〜18 |
★ |
★ |
|
|
|
|
● |
|
|
|
|
|
北、本、四、九 |
ムクノキ |
〜30 |
|
★ |
|
|
|
● |
● |
|
|
|
|
|
本、四、九、琉 |
ミズキ |
10〜20 |
|
★ |
★ |
★ |
|
● |
● |
|
|
|
|
|
北、本、四、九 |
エゴノキ |
7〜15 |
|
★ |
★ |
|
● |
● |
|
|
|
|
|
|
北、本、四、九、琉 |
アオハダ |
〜10 |
|
|
★ |
|
|
|
● |
|
|
|
|
|
北、本、四、九 |
ネムノキ |
6〜10 |
|
|
★ |
★ |
|
|
● |
● |
|
|
|
|
本、四、九 |
マユミ |
3〜5 |
|
★ |
★ |
|
|
|
● |
● |
|
|
|
|
北、本、四、九 |
ヤマザクラ |
〜7 |
★ |
● |
● |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
本(関東中部以西)、四、九 |
カマツカ |
5〜7 |
★ |
★ |
|
|
|
|
● |
● |
● |
|
|
|
本、四、九 |
ゴンズイ |
5〜6 |
|
★ |
★ |
|
|
● |
● |
|
|
|
|
|
本、四、九、琉 |
アカメガシワ |
3〜6 |
|
|
★ |
|
|
|
● |
|
|
|
|
|
本、四、九、琉 |
クサギ |
3〜5 |
|
|
|
|
★ |
★ |
● |
● |
|
|
|
|
北、本、四、九、琉 |
<常緑小低木・低木> |
||||||||||||||
ヒサカキ |
4〜8 |
★ |
|
|
|
|
|
● |
● |
● |
|
|
★ |
本、四、九、琉 |
ヤブコウジ |
10〜20 |
|
|
|
★ |
★ |
|
|
● |
● |
|
|
|
北(利尻島)、本、四、九 |
イヌツゲ |
3〜5 |
|
|
★ |
★ |
|
|
|
● |
|
|
|
|
北、本、四、九 |
<落葉低木(半落葉を含む)> |
||||||||||||||
ニワトコ |
2〜5 |
★ |
|
● |
● |
● |
|
|
|
|
|
|
|
北、本、四、九 |
ノイバラ |
2〜5 |
|
★ |
★ |
|
|
|
● |
● |
|
|
|
|
北、本、四、九 |
ガマズミ |
2〜4 |
|
★ |
★ |
|
|
● |
● |
● |
|
|
|
|
北、本、四、九 |
タラノキ |
2〜4 |
|
|
|
|
★ |
● |
● |
|
|
|
|
|
北、本、四、九、琉 |
ヤマツツジ |
1〜4 |
★ |
★ |
|
|
● |
● |
● |
|
|
|
|
|
北、本、四、九 |
ヤマウグイスカグラ |
1.5〜3 |
★ |
● |
● |
|
|
|
|
|
|
|
|
★ |
北(南部)、本、四、九 |
サンショウ |
2〜4 |
★ |
★ |
|
|
|
● |
● |
|
|
|
|
|
北、本、四、九 |
ムラサキシキブ |
2〜3 |
|
|
★ |
★ |
★ |
● |
● |
● |
|
|
|
|
北(南部)、本、四、九、琉 |
ヤマハギ |
2〜3 |
|
|
|
★ |
★ |
★ |
● |
|
|
|
|
|
本、四、九 |
ウツギ |
1.5〜2 |
|
★ |
★ |
|
|
|
● |
● |
|
|
|
|
北、本、四、九 |
タコ |
1〜2 |
|
|
|
★ |
★ |
★● |
★● |
★● |
|
|
|
|
本、四、九、琉 |
クサボケ |
〜1 |
★ |
★ |
|
|
● |
● |
|
|
|
|
|
★ |
本、九 |
<ツル性植物> |
||||||||||||||
スイカズラ |
|
|
★ |
★ |
|
|
● |
● |
● |
● |
|
|
|
北、本、四、九 |
ツルウメモドキ |
|
|
★ |
★ |
|
|
|
|
● |
|
|
|
|
北、本、四、九 |
サルトリイバラ |
|
★ |
★ |
|
|
|
|
● |
● |
|
|
|
|
北、本、四、九 |
アケビ |
|
★ |
★ |
|
|
|
● |
● |
|
|
|
|
|
本、四、九 |
フジ |
|
|
★ |
★ |
★ |
|
|
● |
● |
|
|
|
|
本、四、九 |
★:花の咲く時期 ●:実のなる時期 翌:翌年
北:北海道 本:本州 四:四国 九:九州
(『学校ビオトープ 考え方 つくり方 使い方』による。)
表6.3-7 草食性昆虫と植物の関係
植物の種類 |
チョウやガの仲間 |
甲虫類 |
その他 |
ススキ |
ギンイチモンジセセリの幼虫、ヒメウラナミジャノメの幼虫、ヒメジャノメの幼虫、ジャノメチョウの幼虫、ホソバセセリの幼虫、チャバネセセリの幼虫 |
|
オナガササキリなどキリギリスの仲間、エビイロカメムシ、アワフキムシの仲間など |
ヤマハギ |
イチモンジセセリ、キチョウの幼虫、ツバメシジミの幼虫、ルリシジミの幼虫など |
ヨシボシナガツツハムシ、ハギツツハムシ、アオバネサルハムシなど |
ミツクリヒゲナガハナバチ、ミツバチ、ホシハラビロヘリカメムシ、ヒメマルカメムシ、オオメカメムシ、シロコブゾウムシなど |
スイカズラ |
イチモンジチョウの幼虫、アサマイチモンジの幼虫など |
コアオハナムグリ、ニセリンゴカミキリの幼虫など |
クマバチなど |
サルトリイバラ |
ルリタテハの幼虫など |
フタホシオオノミハムシ、ホソクビナガハムシ、アカクビナガハムシ、カタクリハムシなど |
トガリハチガタハバチ、ハチガタハバチなど |
ノイバラ |
|
ヒメクロオトシブミ、フタオビノミハナカミキリ、コアオハナムグリ、シロテンハナムグリなど |
シロオビアワフキ、コマルハナバチ、ヒゲナガハマバチ、アカガネコハナバチ、ニホンミツバチ、クマバチなど |
ガマズミ |
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コアオハナムグリ、アシナガコガネ、シラホシカミキリ、ミドリカミキリ、アオカミキリ、キスジトラカミキリ、トゲヒゲトラカミキリ、フタコブルリハナカミキリなど |
シマハナアブ、ホソヒラタアブなど |
クサギ |
カラスアゲハ、クロアゲハ、ミヤマカラスアゲハ、モンキアゲハ、オオスカシバなど |
ニセビロウドカミキリ、シロスジドウボソカミキリ、ヨツスジカミキリなど |
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ネムノキ |
クロアゲハ、カラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハ、スズメガの仲間、キチョウの幼虫など |
アオスジカミキリの幼虫、ホタルカミキリの幼虫など |
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エノキ |
ゴマダラチョウの幼虫、オオムラサキの幼虫、テングチョウの幼虫、ヒオドシチョウの幼虫、シンジュサンの幼虫など |
ヤマトタマムシの幼虫、ヒシモンナガタマムシの幼虫、ナミガタチビタマムシの幼虫など |
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コナラ |
ミズイロオナガシジミの幼虫、アカシジミの幼虫、ミヤマセセリの幼虫、オオミドリシジミの幼虫など |
オトシブミ、アシナガオトシブミ、コナライクビチョッキリ、クロナガタマムシ、チャイロコガネ、ヒメコガネ、ハイイロチョッキリなど |
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クヌギ |
アカシジミの幼虫、ウラナミアカシジミの幼虫、オオミドリシジミの幼虫、ミズイロオナガシジミの幼虫、ミヤマセセリの幼虫、クスサンの幼虫、ヤママユガの幼虫など |
アシナガオトシブミ、コナライクビチョッキリ、オトシブミ、ゴマダラオトシブミ、ヒメクロオトシブミ、シロスジカミキリの幼虫、ミヤマカミキリの幼虫、タマムシ類の幼虫など |
アメガサハゴロモ、クヌギカメムシ、サジクヌギカメムシなど |
ハンノキ |
ミドリシジミの幼虫、オオミズアオの幼虫、シャチホコガの幼虫など |
ハンノキムシ、ルリハムシ、ムナグロツヤハムシ、オトシブミ、ハンノキカミキリの幼虫、アカハナカミキリの幼虫、コトラカミキリの幼虫など |
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(『学校ビオトープ 考え方 つくり方 使い方』による。)
らせん状の花壇は、花壇そのものの形態を景観的に楽しむだけでなく、立体的な構造の中に様々に異なる環境条件をつくり出せるのでよい。例えば、高い頂部はよく乾燥した土壌であるのに対し、すその部分は小川に近く湿潤な土質となる。
またらせん花壇そのものの周辺部が多孔質な構造となり、トカゲ類や昆虫類の棲息に適する。
チョウ類のために、幼虫の食餌植物および成虫の蜜原植物を多く栽培するとよい。表6.3-8 チョウ類と食餌植物の関係を示した。
表6.3-8 チョウ類と食餌植物の関係
食餌植物 |
繁殖するチョウ類 |
コクサギ |
カラスアゲハ・オナガアゲハ |
樹液植物には夏の間、多くの昆虫が集まってくる。チョウ類では、ゴマダラチョウ、ヒオドシチョウ、オオムラサキ、コムラサキ、キマダラヒカゲなどのタテハチョウ類、甲虫ではカブトムシ、カナブン類、ハナムグリ類、クワガタ類、ケシキスイ類など、ハチ類ではキイロスズメバチ、オオスズメバチ、コガタスズメバチなどスズメバチ類である。
表6.3-9 樹液に集まる昆虫
時間帯 |
集まる種類 |
朝・昼 |
ルリタテハ・ゴマダラチョウ・カナブン・モンスズメバチ・オオスズメバチ・ヤマアリ・ギンバエ |
夜・明け方 |
ヨツボシオオキスイ・コクワガタ・ヨツボシケイキスイ |
小動物、昆虫などの生活、とくに営巣のために必要とされる小空間を豊富に備えた構造物をつくることが重要である。つまり、多孔質環境の創出であり、石垣、石積み、丸太積みなどに棲息する生態系の内容を豊富化するためにきわめて有効である。さらに微細なすき間を提供するものとして、砂利や砂の山、落ち葉の堆積物なども有意義である。また、里山環境における旧来のかやぶき屋根の農家とその周辺は、さまざまな規模の間隙を備えた、いわば集約的な多孔質環境をなしていた。生態系の種類を豊富にするためには、休憩のための東屋や鳥類観測所などを、できるだけ多孔的構造にしつらえることを考慮すべきである。休憩所部分には棚を設置し、代償の竹筒多数をおけば、単独性ハチ類の営巣場所となる。これらのハチは人間を襲うことはまったくないから安全である。裏手の軒下に適当な間隔の仕切りを設ければ、仕切りごとにアシナガバチ類が巣を構えることができる。その下に薪積み等をすれば、カミキリ類などが集まるであろう。
湿度の高い林内に雑木やシイタケの粗朶木を野積みしておくと、放線菌類などの働きで次第に朽ちていく。この過程の各段階で、様々な生き物が棲み着く。カミキリムシ類、クワガタムシ類など、甲虫類の幼虫などの棲息地となる。
コオロギ、ダンゴムシなどが潜み、またヘビやトカゲなどが棲息できる。特に、水際の南向きの斜面にある木や石積みは、爬虫類の格好の棲み家となる。
朽木、枯れ葉、ウッドチップなどの堆積をつくっておくと、その中にカブトムシやカナブンなどの幼虫が、夏の間に産卵する。堆肥を混ぜておくとよく成長し、さなぎを経て成虫となって初夏にでてくる。そこの水はけをよくしておくことが重要である。
落ち葉などを集めて鶏糞などを混入しておくと、微生物やダニ類、ハサミムシ、ミミズなどの土壌生物によって分解され、植物の養分となるよい肥料が得られる。また、カブトムシの幼虫やミミズなどの小動物の棲家となる。
(参考文献)
*杉山恵一・進士五十八 『自然環境復元の技術』 (朝倉書店) :図6.3-2、表6.3-4、表6.3-8
*杉山恵一・赤尾整志 『学校ビオトープの展開―その理念と方法的考察―』(信山社サイテック) :表6.3-1
*財団法人日本生態系協会 『学校ビオトープ 考え方つくり方使い方』(講談社)
*いきものまちづくり研究会『エコロジカルデザイン』(ぎょうせい) :表6.3-2、表6.3-3、図6.3-1
*近藤浩文・武田義明・松下まり子・小西美恵子
*『六甲山の植物 植物名と花のトレッキング』(神戸新聞総合出版センター) :図6.3-4
*『ビオトープ考 つくる自然、増やす自然』(INAXギャラリー) :pp39-42の写真
*今森光彦『ヤマケイポッケトガイド18 水辺の昆虫』(山と渓谷社) :p.27の写真
*松田道生 『みんなでホタルダス 琵琶湖地域のホタルと身近な水環境調査』(新曜社)
2003.2.22 1. 見学日時:2003.2.22.(土)9:00〜18:00 2. 見学場所:「神戸市立森林植物園」 3. 出席者:日本環境教育学会関西支部:赤尾、伊藤、中橋、新田 オープンカレッジ:松井、堤、塩野、上田、柴谷、武田、荒木、山形、井上、 甲南大学:谷口、天野、渡辺、山田、岡田、小山、松田、藤井、上村、田口 中島(高阪研究室)、クリス 4. 見学概要 森林公園園長の案内で、園内を約1時間見学し、昼食後、各自散策を楽しんだ。 4-1.園長による「森林展示館」内の説明 (1)「森林展示館」内にある世界一の巨木、ジャイアントセコイヤの輪切り(樹齢約2000年)の見学をして、大自然の時間の流れを感じた。 @まず、予定地の土壌のpHを調査した方がよい。六甲山の土壌は酸性寄りである。 A土壌の塩分含有率を考慮して、盛り土をする(約1.5m)。その際、腐葉土を混ぜても効果がある。 Bヤナギ(すでに数本移植されている)やポプラは根が浅く、風に弱いので適さないであろう。 C森林植物園内のコナラやクヌギは管理の手間が少なく、よく生育するが、高山帯植物のため、移植は慎重にした方がよい。 D高木は生育しにくいと思われるため、ウバメガシ、ネズミモチ、オオヤマザクラなどを植栽するとよい。 E鳥類や昆虫の棲息地となるよう密生させる。 4-2.園長の説明を受けながら園内を散策 「森林展示館」を出発して、さくら園→北日本区→山田道→ウサギのくに→長谷池 →アジサイ広場→思い出の森の順路で散策した。 4・3.各自散策
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7.提言
建設計画は、次表に示すように、5ヵ年計画として、提言したい。
表7-1「水と音のビオトープ」建設予定表(プロセス・プランニングであるため予定変更があり得る。)
地下水がGL−1〜1.5mで湧出し海水を含むことが推測されるため、工事は次の項目を中心に、5ヵ年計画で建設することを提言する。予算詳細は運営協議会で決めることとし、概略の項目を書きに示した。
@森林形成するための盛り土(高さ約1m)[形態は六甲山系を模する]と、土壌改善のために腐葉土を入れる工事(初年度)
A高・中低木を植える(初年度に出来るだけ多く、各年度計画的に)
B池・草地帯、川を整備すること(2年度)
C水車小屋の設置(5年度)
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項目 |
03年度 |
04年度 |
05年度 |
06年度 |
07年度 |
基礎工事 設 備 花・木・草 |
盛り土(池の埋立て含む) |
○ |
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池・川などの掘削 |
○ |
○ |
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浮 島 |
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○ |
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草 地(湿地) |
○ |
○ |
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サンクチュアリ(自然維持区域) |
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○ |
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排水路改造 |
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○ |
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配 管(水・処理水) |
○ |
○ |
○ |
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観察デッキ |
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○ |
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ウッドデッキ/コリドア |
○ |
○ |
○ |
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ログハウス |
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○ |
○ |
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東 屋 |
○ |
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観察小屋(巣箱含む) |
○ |
○ |
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水 車(水車小屋) |
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○ |
○ |
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看 板(案内・説明) |
○ |
○ |
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設備製作用資材(ベンチ) |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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花 壇 |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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肥 料 |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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高 木(約100本) |
○ |
○ |
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中低木(約200本) |
○ |
○ |
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花・木・草 |
○ |
○ |
○ |
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シンボルツリー(梅) |
○ |
○ |
○ |
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ビオトープ |
林・バードビオトープ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
堆肥ビオトープ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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樹液ビオトープ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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体験ビオトープ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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共生ビオトープ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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丸太積みビオトープ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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バタフライ・ビオトープ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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フラワー・ビオトープ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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カブトムシ・ビオトープ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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落ち葉・小枝積みビオトープ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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六甲山系希少種ビオトープ |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
備 品 管 理 観 察 事 務 |
備 品(ホース、散水機) |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
倉 庫 |
○ |
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管理棟(コンテナハウス) |
○ |
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作業道具(シャベル、鋤、鍬、草刈機等) |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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草刈作業 |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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実験観察器具 |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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生物調査費 |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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電話回線(内線) |
○ |
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電話回線(ADSL) |
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○ |
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OA・情報機器(パソコン、webカメラ等) |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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印刷費(報告書) |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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事務雑用品 |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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会 議 |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
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予 備 |
○ |
○ |
○ |
○ |
○ |
これまでに「水と音のビオトープ」の計画を提言したが、まとめとして、運営に関して次の事項を提言する。
1)人工島であるために、周辺地区を含めて"木"が少ないので、六甲山の形を模した丘に"森"を育て、少しでも都会地に"緑"を増やすことを提言する。"森"と"水"とが増えることにより、鳥が集まり、鳥の鳴き声、姿を楽しむことが出来るであろう。
2)"梅林"の名所とするために、シンボルツリーとして梅を植栽することを、提言する(岡本梅林参考)。現在も所々"梅"が植えられており、将来の成長が期待できる。例えば、ビオトープ予定地南側排水溝の北側法面に"梅"を植栽すると"梅林の道"と成長すると期待できる。
3)体験ビオトープについて、体験ビオトープでは、子どもたち(参加者)が、例えば、3ヶ月に一度、四季の花々を植え替えるとか、泥んこ遊び場を作っては、また壊して新しいビオトープにするとか、そのようなゾーンとすることを提言する。
4)催しもの(イベント)については、現在企画されている「アーモンド祭り」(春)のほかに、「水環境フェア」のような行事を、夏から秋にかけて、企画し運営することを提言する。
5)毎月1回更新するホームページを公開して、広く市民に情報を提供する。また、直接市民の要望を受け入れる掲示板とすることを、提言する。
2003.1.11. 1.見学日時:2003.1.11.(土)16:00〜17:30 2.見学場所:神戸市北区井吹台 谷口公園 3.出席者:東灘・水環境センター;古川 学校ビオトープ協議会:赤尾 甲南大学:谷口、渡辺、天野、山田、岡田、小山、桔梗、楠、藤井、上村、大村、田口 4.見学概要: 「水と音のビオトープ」の計画立案の参考にするために見学した。日が暮れるのが早い時期で、尼崎の「ホタルの里」を見学した後であったので、遅い時間帯の見学になった。 1)丘陵地帯を宅地開発したときに建設したビオトープで、天水を遊水池へ導入する課程を利用して、細長い距離、傾斜を活かして建設している。以前、完成直後に研究室で見学した時に比べて、冬季であったこともあってか、荒れた寂しい感じをもった(専門家のコメントも手入れが悪いとのことであった)。管理維持の大切なことを痛感した次第である。 2)新興団地であるので、一般の公園と併設されているような感じの設計であると思われた。 3)遊具の金属製の水車もあったが、水が枯れていて動いていなかった。地下水くみ上げのポンプもあった。 4)湿地帯も段丘のようになっていた。各段の境は、木杭が打ち込まれていた。水が枯れていたので、湿地帯の作り方がよくわかった。 5)川の流れは石積みであった。 6)トンボ池が遊水池の直前にあり、その後暗渠を経て、滝となって遊水池へと流れている。 7)遊水池を見下ろせる場所に、野鳥観察場が設置されていた。 8)北側の丘陵地には、散策できるように遊歩道が雑木林の中を通っており、尾根道を散策できるように設計してあった。
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2003.1.30. 1.見学日時:2003.1.30.(木)10:00〜10:30 2.見学場所:神戸市東灘区住吉山手 山田地区 3.見学者:甲南大学;天野、小山、田口 4.概要:住吉山手町の「山田地区」に水車ができた、という情報を得たので、場所を探しながら見学した。 4.1. 山田地区は隣保制度が残っている地区とのことで、現在でもわずかに残っている農家への灌漑水路を利用して、山田地区公民館に併設されていた。 4.2. 案内板に、次の通り来歴が書かれていたので、引用する。 山田太郎・次郎水車の来歴 (灘目の水車) 六甲山麓には、江戸時代からたくさんの水車が残っていました。特に住吉川流域には88基もの水車が回り、灯油の油絞り、製粉、酒米の精米など、水車産業として灘での酒作りを支えていました。この地域の水路は当時の水車のために住吉川の上流から引かれたもので、今も清流が町の中を流れています。 (この度、完成した水車には、山田太郎車(大)山田次郎車(小)という名前がつけられました。) 4.3. 当日は、寒波襲来で非常に寒く、大きい方の太郎車は凍結して止まっていた。 水車半径は大が約2.3m、小が約1.3mであった。 4.4. 臼の設置構造が解り、参考になった。 4.5. 東灘・水環境センターから頂いた、資料によると、主な仕様は次の通りである。 水路整備:延長=40m 幅=0.6〜1.2m 道路整備:延長=50m 幅=1.5m〜3.5m
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2003.1.30. 1.見学日時:2003.1.30.(木)11:00〜11:30 2.見学場所:芦屋市シーサイドタウン内 3.見学者:甲南大学;天野、小山、田口 4.概要: 4.1. 芦屋市シーサイドタウンの西浜公園は、上水道で循環させているが、小さな滝、小川、水遊びのできる池、水草のある池、周りを高木で囲っており、野鳥が多く集まっているので、レイアウトなど参考になるのではないかと、見学した。寒い日であったので、散策している人はいなかったが、都会的な落ち着いた感じのする公園であった。
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2003.2.22. 1.見学見学日時:2003.2.22.(土)14:00〜15:30 2.見学場所:「神戸市水の科学博物館」 3.見学者:日本環境教育学会関西支部;赤尾、伊藤、中橋、新田 オープンカレッジ ;松井、堤、塩野、上田、柴谷、武田、荒木、山形、井上 甲南大学 ;谷口、クリス、渡辺、天野、山田、岡田、小山、松田、楠、藤井、上村、田口、中島(高阪研究室) 4.見学概要 「水と音のビオトープ」の計画立案に際して、上水道から、下水処理場まで一貫して"水"の流れを知ることに意義がある、と考え見学した。 4.1. 神戸市の水の供給源など 75%は、琵琶湖水系で阪神水道企業団から購入している。この水は、現在高度処理されているので、以前に比較して格段に臭いはなくなっている、との説明があった。 4.2. 科学博物館内の展示施設について 小学校4年生の「理科」教育内容程度の実験設備を中心におき展示している、とのことであった。 波の伝播の実験装置、水車を回すのにどこの位置の羽根に水をかけたらよいか、など我々大人にもよい知識源となる展示品があった。
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